「星のカービィ25周年記念オーケストラコンサート」の感想 Part 6(まとめ)です。
〈※ネタバレ注意〉
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本記事は、前記事のつづきです。前記事(Part 5)はこちら。
htwmc.hateblo.jp
編曲
今回初めて開催された、カービィのゲーム音楽メインのオーケストラコンサート。その編曲は、自分の想像よりは落ち着いたイメージのものでした。
その編曲意図が、パンフレットに酒井さんの言葉で述べられています。以下にちょっと要約して記述してみます。
“ゲームミュージックである『カービィ』の楽曲をオーケストラの楽器で演奏するのはとても困難(特に近年の作品の楽曲)。各曲の編曲を、複数の外部編曲家に依頼することも考えたが、その場合、各楽譜が全力投球の演奏を強いられるものに仕上がってしまい、全曲とおして演奏した際の楽団の体力が持続しない可能性があった。奏者が疲弊しすぎることなくコンサート当日の昼公演と夜公演をこなせるよう配慮するため、原曲に寄せた編曲ばかりでなく、少し間引いた編曲も計算に入れ、全体のバランスをとった”
およそこんな感じでした(きちんと要約できているか不安です……)。
こういう理由があって、緩急・メリハリのある編曲だったんですね。すごく納得しました。素人には想像できない事柄でした。少々強引な言い方をすると、いわゆる「引き算の美学」、「そぎ落とす美学」みたいなものがあったということですね。
また、酒井さんが公演のMCタイムに登壇したときにも、間引くことについてのお話をなさっていたことを思い出しました(参照:【感想4】やすらぎのオーケストラ。カービィ25周年コンサート(4/16東京昼) - おだやかピクセル)。
以下に記述します。
“カービィ楽曲で特徴的な、「タッタカタッタカタッタカタッタカ……」とずっと鳴っているパーカッションを、今回オーケストラで再現するのは、最小限におさえることにした(「『原曲再現』の重要度・優先度を下げる」と発想転換し、演奏の負担を減らした)。原曲の要素を切り捨てるのは、原曲の作曲者がすぐ近くにいるという意味で大変な判断ではあったが、作曲者に「切り捨てます」と伝えられさえすれば、その後の編曲作業は少し楽になった。逆に一般の方は、そういったことを作曲者に直接伝えられないから、がんばって演奏しようとするのでは”
以上のことから気づいたのは、「カービィ楽曲のオーケストラコンサート用の編曲として、今回の25周年公演で採用されたような落ち着きあるタイプの編曲は、開発元であるハル研にしかできないものだったのではないか」ということ。
外部委託のイベントとして、(あるいはファンイベントとして、)カービィ楽曲のオーケストラコンサートを比較的盛大に開催するとなると、おそらく担当の音楽家は、「カービィの楽曲を演奏できる大切な機会・権利をいただけたのだから、精一杯のコンサートにしよう」と誰であっても当然思うわけです。その思いが、ちょっと過度になりすぎる可能性もあるわけで。そうなると、原曲再現度合いだとか、迫力やら音の厚みやら、静かな曲では繊細さ、以上のような要素を、あまりに重視しすぎてしまうでしょう。
これに対し、今回の25周年コンサートの演奏では、そういった重々しい気負いみたいなものは鳴りを潜めていたように思います。肩肘張らずにリラックスして楽しめるコンサートという印象でした。
言うまでもありませんが、「ゲームミュージックのメロディをただオーケストラ楽器に当てはめた」なんて演奏ではありませんでした。各楽器の豊かな演奏表現の魅力を、存分に堪能できました。今回、親しみ深いカービィの曲で、初めて生でオーケストラを聴いたというカービィファンの方がいたら、とてもいい経験になったのではないでしょうか。生のオーケストラに初めて触れた人に対して、やさしいコンサートだったろうと思います。
公式だからこそできる、緩急ある落ち着いた編曲。観客であるカービィファンは、自らの人生の過去を彩ってきた、親しみあるカービィの世界に思いを馳せつつ、おだやかな演奏に身を委ねることができました。自分の第二の故郷にいるような気持ちで聴けるコンサート。
一言で表すと、(記事タイトルにもしましたが、)まさに、「やすらぎのオーケストラコンサートだったなぁ」と感じました。
(“やすらぎ”って、カービィ楽曲のタイトルにいくつか使われていますよね!)。
ファンサービス
心やすらぐ素晴らしい演奏だったわけですが、演奏以外のサービスもすごくて。曲と曲の合間のMCタイムにおける、ゲスト方々によるファンサービスも素晴らしいものでした。
語弊を恐れずに言うと、カービィの楽曲がオーケストラによって演奏されれば、もうそれでカービィファンは大満足なわけです。にもかかわらず、作曲家陣の登場、カービィ、セクトニア、スージーの登場、とどめは桜井さんのプレゼン。もう、おなかいっぱいでした。
カービィファンといっても、ゲームとしてのカービィのファンだけでなく、キャラそのもののファン、アニメのファン、世界観の奥深さについてのファン等がいます。
そんな、ありとあらゆるカービィファンを満足させてしまう、“なんでもあり”のファンサービス、おもてなしだったように感じました。公式によるおもてなしの供給の波は、とどまることを知りませんね。
曲目
「今回のコンサートで一番好みのメドレーは?」と訊かれたら、迷うところですが「夢の泉の物語メドレー」と私は答えたいと思います。木管楽器で奏でられるあの哀愁たっぷりのメロディは、良い意味で卑怯です。涙腺にきます。
あ、パート別ですと、「VS.ゼロツー」も印象深かったですね~。完成度高かった印象があります。「狂花水月」や「ドロシア・ソーサレス」も良かったです。
公演プログラムは全て、各ゲームソフトからいくつかの曲を抜粋したメドレー形式でした。そうするより他にしかたないという選択ですよね。
メドレーの選曲も、ほぼ余すところなく、かなり万全だったように思います。二時間程度の演奏時間内で、これ以上ない構成でした。
そのぶん、ひとつひとつの曲パートは少々短く感じ、ちょっとかけあしだったという印象も否めませんが、逆にいうと、カービィシリーズには皆に愛される名曲が25年の間にすごくたくさん作られたいうことでもあり。
ゲーム主人公の名を冠する『星のカービィ』という25年つづくゲームシリーズに、これだけの名曲が揃っているという点は、他のゲームシリーズに対して誇っても良い点だと思います。こんなシリーズは、珍しいほうでは。
結局「ほんのちょっぴり物足りない」というくらいのソワソワした感じが、いちばん楽しいものです。ちょっぴり物足りないからこそ、「もしまた開催されるなら聴いてみたい!」ってなるわけですし(こういう思いが、次回のオーケストラコンサート開催につながるかもしれません)。
とはいうものの。MCの古川さんも言っていましたが、オーケストラで聴いてみたいカービィの曲は、正直まだまだありましたね。
今後もしも公式のカービィオーケストラコンサートがあったら生で聴いてみたい曲を、個人的にこっそり挙げてみます。あえて、すごくワガママに(そういえば、バタービルティングが演奏されなかったのはちょっと意外でした)。
- キャッスルロロロ
- フロートアイランズ
- バブリークラウズ
- バタービルディング
- レインボーリゾート
- クラウディパーク
- ボス(『スーパーデラックス』)
- ココア洞窟
- 洞窟大作戦 古代の木々エリア
- ノヴァ内部
- 格闘王への道
- しずかなもりで
- ボス (『星のカービィ64』)
- ホロビタスター
- チェックナイト
- シティトライアル
- ゼロヨンアタック
- 銀河最強の戦士
- 支配してアゲルヨォ
- 必殺!スーパー能力
- 勝利への道
- カミにも等しき美ぼうが前に
- Dirty&Beauty
- とびだせ!奥へ手前へボスバトル
- 枯渇した海
- クローンデデデ&D3砲戦
- Crazy Rolling in Money
- 回歴する追憶の数え唄
「回歴する追憶の数え唄 」なんかは、エレクトリックギターサウンドでも聴いてみたいですね。
今回の25周年コンサートでは、オーケストラ楽器のみにこだわって編曲されていましたが、また機会があれば、エレクトリックギター、ドラムセット、アコースティックギター、シンセサイザーなどを用いたカービィ音楽の演奏も、ぜひ生で聴いてみたいものです。
↑で曲リストを作っていて、ふと思い出したこと。
ファミコン時代のピコピコ8bitミュージックのような、昔のゲーム楽曲のアレンジは、鳴っている音の数が少ないことから、アレンジャーとリスナー双方に、アレンジに対する想像の余地があるんですよね。逆に近年のゲームの曲は、しっかり作り込まれて音数多くリッチなぶん、アレンジャーとリスナー双方が大胆なアレンジをイメージしにくいように思います。たとえ近年の曲を誰かがアレンジしても、リスナーが「イメージと違う」ということになりやすく、受け入れられづらいことが多いのではないでしょうか。
……あ、「だから、どうした」という話ではなくて、本当にとりとめのない話で脱線しました。失礼しました。
照明
今回のオーケストラでは、ステージの壁全面に広がる照明の演出が、適所適所で効果的に用いられていました。演奏中の曲がかかっているときのゲーム画面をイメージした、様々な色の光に、魅了されました。
カービィコンサートの開催にあたり、もしかしたら、例えば「レーザーがギュインギュイン」みたいな照明というのも、選択肢にあったかもしれません。ですが、何度も述べたように、今回のコンサートは全体的に落ち着いた編曲。レーザー照明だと、ちょっと合わなかったように思います。
主張しすぎず、音楽を邪魔しない照明。ハイセンスでした。
余談
観客席では、ゲーム業界の著名な方々をお見かけしました。
任天堂社長の君島達己氏。そのおとなりには宮本茂氏。伊藤あしゅら紅丸氏、横田真人氏、そして田中宏和氏もお見かけしました。
ミーハーな私は、このような方々をお見かけでき、演奏が始まる前から感動しておりました。
私には、ゲーム業界関係の著名人で、尊敬している方が何名かおり、そのうち、特にメディア露出の多い方は、ぜひ生で拝見したい!と思っておりまして。
このうち、桜井政博さん・酒井省吾さん・近藤浩治さん・糸井重里さんは、それぞれ「PRESS START」やトークイベント等で、個人的にお見かけできていました。
「宮本茂さんをこの目で見てみたい。メディア露出の少ない石川淳さん・安藤浩和さん・そして田中宏和さんも、奇跡が起こればこの目で見てみたい」
……と、実はひそかに思っていたのですが。それが、たった一日で叶ってしまいまして。この感動をどう表現したらいいか、私にはわかりません。
まとめ
オーケストラによる演奏を生で聴くという経験は、同じ音源が収録されたCDやMP3ファイルをスピーカー・ヘッドホン・イヤホン等で電子的な信号で聴くのとは、全然異なるものだと思います。もしかしたら、耳に入るものは同じかもしれませんが、目で、鼻で、肌で、五感を総動員して感じられる体験がある分、記憶に残るんですよね。
(個人的には、昔、初めて生でプロの弦楽器演奏を聴いたときの経験が忘れらません。ヴィヴァルディの四季、春の雷パートを聴いたときは衝撃でした。こんな形状の楽器から、本当にこんな音が鳴るのかと感動しました)。
楽器から奏でられた音の振動が、自分と同じひとつの空間と時間、共有されたひとつの空気中を伝わることでしか感じられない、生の迫力。もちろんオーケストラに限らないですが、そういう生の迫力というものは、何ものにも代えがたいものだと思います(パンフレットに掲載されている石川淳さんのコメントも、ぜひ確認してほしいです)。
大好きなカービィの25周年を、記念すべきオーケストラコンサートで自分も一緒にお祝いできるなんて、私の人生で忘れられない体験として確かに刻まれましたね。
「カービィファンでよかった」と思える一日でした。
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